確定拠出年金(DC)における継続投資教育を自社で実施する意義とは
継続投資教育メニューの複層化に向けての前提課題
前回のコラムでは、確定拠出年金の継続教育に主体的に取り組んでもらうためのメニューの複層化の必要性を挙げた。今回はそこに向けた課題点と解決案を考えてみよう。
まず社員教育を実施する担当者としての必要な視点は、PDCAサイクル、すなわち①教育を戦略的に捉え、②教育目標を設定して、③その効果検証を行い、④次回に向けた継続教育の改善と継続教育に関する知見の蓄積につなげること、である。継続投資教育においても同様に1度きりに終わらせることなく、PDCAサイクルの設定・実施を繰り返すことで自社事情に合った加入者の主体性を促す教育を実現していくスタンスが重要である。
継続投資教育を実施するうえで導入企業の何が課題・悩みかについては以下の点が多いようである(※)。
- 教育に投入可能な時間の確保が困難
- 無関心層にアプローチするうまいやり方がわからない
- 加入者間の制度理解・関与のバラつきを少なくする効果的なやり方がわからない
- 継続投資教育の効果がどの程度か、わからない
つまり、継続教育に投入可能な時間が確保できない中で、加入者間の理解バラツキをできるだけ少なくし、確実に無関心層にアプローチして全体底上げを効果的に図る、その実践的な方法の開発提案と課題解決をどう解消できるか、教育を委託する運営管理機関や外部支援機関に求めている、といえるではないだろうか。
(※)NPO法人確定拠出年金総合研究所が実施した「「第13回:企業型確定拠出年金制度の制度運営に関する調査(平成26 年 11月)」参照
eラーニング導入のメリットと課題
そこで上記の課題解決の有力な方法がeラーニングである。従来の集合教育などによるOff-JTでは、コスト的、時間的にタイムリーかつ必要な回数の教育を実施するには限界があった。一方、OJTでは体系的な教育が困難で、かつ教育の内容に大きなバラツキが生じなるなどの問題がある。これらの問題を打破できるツールとして期待されるeラーニングのメリットと課題をみてみよう。
メリット1:時間・場所の制約がないこと(企業・加入者)
- 企業:会場手配や印刷物の準備・交通費などの時間と手間、コストを削減できる。就業時間内に実施すべきか否かという問題から開放される。
- 加入者:インターネットを利用するeラーニングは、時間・場所の制約を受けずに自席・就業時間外などで受講可能。
メリット2:理解度に合わせた学習が可能なこと(加入者)
自身の都合の良い時間に学習可。また、理解度に合わせて何度も繰り返し学ぶことができるので、高い教育効果が期待できる。ただし、主体性を持ってもらうことが前提。
メリット3:教育の効果が講師の質に影響されないこと(加入者)
集合教育では、講師の質が教育効果を左右する場合がある。その点eラーニングでは、すべての人が同じ内容を受講する。講師の質やその時の環境などに左右されず、一律の内容を教育することができる。
メリット4:緊急性の高い周知事項等を速やかに通知できること(企業)
トラブル対応や新製品への対応など、大至急、全社的に同じ情報を共有しなければならない場合に効果的。特に緊急時など時間がない場合にでも、案内メールのみの活用や教材を作成・修正してすぐに、全拠点に教育することが可能。
メリット5:加入者の理解度や進捗の把握が容易なこと(企業)
加入者の理解度や進捗度が容易に把握できる。加入者が理解していない点を把握できるので、効果的にフォローアップができる。
メリット6:加入者の一人ひとりに合った教育が可能なこと(加入者)
集合教育では受講者一人ひとりに合わせた教育ができず、均質的な教育になりがち。その点、eラーニングでは、加入者の属性などに合わせて、主体的な教育プログラムを提供できるので、高い教育効果が期待できる。
以上のメリットに対しては次の課題があり、その対策が必要である。
課題:加入者に学習の主体性の持たせ方・モチベーション維持が難しいこと
eラーニングはあくまで個人として学習する場合ことに委ねるため、加入者の主体性やモチベーションに教育の効果が影響される部分が多い。継続投資教育において、無関心層の底上げという課題解決上、eラーニング導入時には、いかに加入者の主体性を持った学習意欲を高め、維持するかという工夫・仕組みが重要だ。
導入企業における自社事情に合った投資教育の実施(主体的に学んでもらう工夫)
以上のように継続投資教育実施にあたっての課題とその解決ツールとしてのeラーニング導入の特徴をみてきたところで、自社事情に合った加入者の主体性を促す継続投資教育の実現に向けて考えたい。重要なことは、「加入者の主体性及びモチベーションを維持するしくみを用意する」ということだ。ポイントは次の3点にある。
ポイント1:継続投資教育の前の加入者自身のライフプランを作成してもらうこと
前回のコラムでも書いたように、なぜ投資教育を学ばねばならないか、ということにまずは加入者自身に十分納得してもらう必要がある。人生を豊かにするイメージを各自のライフプランに思い描いてもらい、その実現のために資産・年金の運用の知識が求められるのだ、という自覚が主体性を促す大前提である。特に無関心層の底上げには必要な作業といえる。これに関しては次回のコラムで取り上げたい。
ポイント2:実施に向けての自社事情に合ったバックアップメニューを用意すること
eラーニングは個人学習になるので、その管理を加入者個人だけに任せるのではなく、費用と相談しつつ、自社事情に合ったより良い学習体系を目指してみたい。具体的にはアドバイザー制度・評価制度を設けて、成果をフィードバックできる体制を整えること、ゲーム感覚で楽しく学習できるゲーミフィケーションを導入すること、などが効果的な手段ではないかと思う。
ポイント3:加入者が学びたいときに学べる環境を提供すること
ライフプランや資産運用はその内容も個人的なものになりがちである。自宅でパートナーと学んだり、職場を離れてゆっくりと学びたい人もいるだろう。同僚がいる職場だけでなく、個人の時間にスマートフォンで取り組めるなどの配慮も必要ではないだろうか。
有限会社あおむしマネジメント(AMC) 代表取締役 佐々木敦也
「必ずよくわかる新しい年金制度401k(総合法令出版)」他 著書多数
確定拠出年金eラーニング監修
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