本ブログの内容は、マタハラNet創設者であり、株式会社natural rights代表取締役社長の小酒部氏の資料および講演内容に基づいています。

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マタハラの定義とは?

「マタハラ」はマタニティハラスメントを略した言葉です。

マタハラという言葉を日本に広めた、マタハラ防止教育の第一人者である小酒部さやか氏は、マタハラをつぎのように定義しています。
マタハラとは、働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、妊娠・出産・育児などを理由とした解雇や雇い止め、自主退職の強要で不利益を被ったりするなどの不当な扱いを意味する言葉

英語圏では、同様のハラスメント行為を示す言葉として“pregnancy discrimination”という言葉が広く使われています。しかし小酒部氏は自身の経験から、妊娠期=pregnancy以外にも、起こっているハラスメントがあると考えています。たとえば、妊娠する前の女性や出産予定のない人たちへのハラスメント、育児期間中のハラスメントなどです。そこで「マタハラ」という造語を広め、マタハラ防止、解消支援を行ってきたと語っています。

マタハラ、セクハラ、パワハラ。混合で起こる三大ハラスメント

マタハラ以外のセクハラ、パワハラを合わせて、「三大ハラスメント」と呼ばれることもあるマタハラですが、それぞれはどのように位置づけられるのでしょうか。

実際のハラスメント事例をみていくと、マタハラにはセクハラ混合型のものや、パワハラ混合型のものがあり、それぞれのハラスメントが個別に起こることもあれば、同時に起こることもある、ということがわかります。

たとえば・・・
―マタハラ&セクハラ混合型の発言例

  • 「突き出たお腹が見苦しい」(身体的特徴をとらえた発言)
  • 「その日が予定日ってことは…いつしたか分かるよ」(性的発言)

―マタハラ&パワハラ混合型の発言例

  • 「クソ妊婦!」(人格否定)
  • 「妊婦はお荷物」(妊娠という一時をとってすべて否定すること)

マタハラの4類型

先に示したように、セクハラやパワハラも混合されたかたちで起こるマタハラがあります。
一方で、マタハラそのものも、大きく4つのタイプに分けることができます。タイプを知ることで、個人や組織としてやってしまいがちなマタハラに気づきやすくなるので、ぜひ知っておきましょう。
EPの「マタニティハラスメント防止研修」eラーニングでも、この4類型に基づいた問題を作成し、自身や他者が気づかずにやってしまっているかもしれないマタハラ行為に気づくことができるようになっています。

マタハラ4類型

  • 価値観押しつけ型…世代間の価値観の違いを無視した押しつけにより起こるマタハラ
  • いじめ型…不公平感を感じる他社員の怒りの矛先が妊娠した社員に向けられることで起こるマタハラ
  • パワハラ型…妊娠や育休(育児)に理解を示さず、(長時間)労働を強いる職場風土で起こるマタハラ
  • 追い出し型…妊娠、出産、育児をしている人を排除する職場風土で起こるマタハラ

マタハラの被害者の特徴は?

マタハラの被害者傾向についても、近年のデータを参照しながら見ていきましょう。

雇用形態別妊娠等を理由とする不利益取扱い等経験率(個人調査)

参考 http://www.jil.go.jp/press/documents/20160301.pdf

独立行政法人 働政策研究・研修機構が2016年に公表した調査結果によると、正社員で20%を超える労働者がマタハラを経験したことがある、と答えています。
さらに注目すべき点として、企業規模にかかわらず、派遣労働者は他の雇用形態の者に比べ、マタハラの被害を受けやすいことがわかります。2017年1月より施行された「改正労働者派遣法」では、派遣元だけでなく派遣先企業も事業主として「マタハラ防止措置」の責任を負う必要があると明示されました。

派遣労働者を雇用している企業は特に、自社内でのマタハラ発生リスクを強く認識し、防止措置の早期実施を行う必要があるといえます。派遣労働者からマタハラについて相談があった際に、「派遣元に相談してください」という返事をしているようでは、事業主としての責任を果たせていないといえるのです。

さらに現在はまだマタハラの被害報告がない場合でも、「泣き寝入りしているマタハラ被害者」がいるかもしれません。マタハラは母体を優先したい時期に発生するハラスメントであること、産休、育休、時短勤務などの制度を利用していることに本人が後ろめたさを感じて被害を訴えにくいことから、被害者の泣き寝入りが起こりがちだという特徴もあります。

正しい現状把握についての情報を知りたい方は、こちらの「小酒部さやか氏講演実録から学ぶ マタハラ防止教育 成功のための基礎知識」をご確認ください。

マタハラの加害者は?

同機構が公表した別の調査結果からは、「妊娠等を理由とする不利益取扱い等の行為者」、すなわちマタハラの加害者の傾向についても知ることができます。

参考 http://www.jil.go.jp/press/documents/20160301.pdf

マタハラ加害者の特徴としてあげられるのが、「役員」や「人事所管部署の長、社員」つまり人事部門の担当者といった、本来であればマタハラ対策を実行し、マタハラ被害を防ぐ側に立たなければいけない立場の人たちが、加害者になってしまっているケースがみられるという点です。

また「職場の同僚、部下」の内訳を見てみると、男性よりも女性の割合の方が多くなっていることも特徴的です。マタハラは出産・妊娠や育児に関するハラスメントなのだから、当事者になり得る女性よりも、男性加害者の方が多いだろう…と思われる方もいるかもしれませんが、同性間でのマタハラも発生しているというのが現状です。

マタハラはなぜ起こるのか?

マタハラが起こる背景のひとつに、企業の「長時間労働」があります。長時間労働が習慣化した職場では、「長時間労働のできない人」、すなわち妊婦や育休取得者は、不当な扱いを受けやすくなります。

マタハラ発生のもうひとつの背景といえるのが、「性的役割分業の意識」です。
「妊娠したら女性は仕事を辞めるべきだ」「子どもが小さいうちは、女性は家庭を守るべきだ」といった、性別を理由にした社会的役割の押しつけは、日本社会にいまだ根強く残っています。こうした意識は、妊娠・出産をした女性だけでなく、育児中の男性や介護中の労働者など、働き方に何らかの制約を抱えるすべての従業員を苦しめ、マタハラだけでなくセクハラやパワハラ発生の背景にもなっています。

マタハラをどうやって防止するのか

ここまで読んでいただいた内容で、「マタハラとは何か」についての基本的な情報は押さえていただくことができました。そのうえで重要なのは、社内でのマタハラ発生をどのように防止していくか、ということです。

まず理解しておくべきことは、マタハラは個々人の努力では解決が難しいということです。
マタハラ4類型のところでもご紹介したとおり、「悪意のない言動」がマタハラになるケースや、長時間労働が習慣化した職場環境がマタハラを生むケースなどがあることから、マタハラは

  • 加害者が「自身の行為がマタハラである」ということに気づきにくく
  • 組織の風土や習慣がマタハラを発生させていることもある
  • ということがいえます。

    このような状況をふまえると、マタハラを防止するために、まずは全社員が「マタハラとは何か」についての正しい知識をもち、「マタハラを発生させてはいけない」という共通認識を持つ必要があります。

    EPのeラーニングはこの点を重視した構成になっており、全社員のマタハラ理解度を高めるための工夫がなされています。たとえば、〇×式の「マタハラ理解度チェック」に取り組むことで、受講者が自分の理解度を認識しながら学習を進めていくことができます。

    Q. 従業員が自分の妊娠を会社に伝えるのに適したタイミングや相手とは?

    マタハラ解決のカギとなる「逆マタハラ」への対応

    もうひとつ、小酒部さやか氏は、マタハラ解決のカギは「逆マタハラ」にある、と訴えています。
    逆マタハラの定義も、確認しておきましょう。

    逆マタハラとは、妊娠や出産・育児休業で休んだ社員の業務のしわ寄せで、長時間労働を余儀なくされ、過労死しそうな周囲からの訴えを象徴した言葉。

    本来であれば、妊娠や出産、育児休業で職場から一時的に離れる従業員が出た場合、代替要員が導入されるべきですが、現状では7割程度の企業で、「産休育休を取得する社員がでると、その社員の業務は周囲の社員が負うことになる労働環境」にあるという調査結果(※)も出ています。

    ※出典:2016年4月発表マタハラNet×HR総研(Profuture株式会社)と協働調査結果より

    「妊婦だけが守られている」と感じる従業員が多ければ、いじめ型のマタハラが発生しやすくなります。
    また、妊娠などを利用して周囲への気遣いをせずに迷惑をかける従業員が続出する職場も問題です。このような職場は、「逆マタハラ」を訴える従業員も増え、雰囲気の悪い、働きづらい職場になってしまいます。マタハラは、こうした問題まで含めて解決、防止をしていかなければなりません。当社のeラーニングではもちろん、「逆マタハラ」や「自分本位の権利主張」といった視点での学習内容を扱っています。

    Q. 妊娠した女性の一方的な「権利主張」にはどう対応したらよいですか?

    マタハラは全従業員で取り組む「働き方」の問題です

    マタハラは、誰もが加害者になり得ます。だからこそ、管理職だけが学んだり、管理職だけに対応を指示するのではなく、全従業員が知識を身に付け、全従業員で共通認識を持つことが重要です。

    さらに、これまで見てきたように、マタハラはモラルの問題だけではなく、「働き方」の問題が根底にあるため、「NGワード、NG対応」だけを学ぶような社内研修では不十分です。逆マタハラの事例にみられるように、フォローにまわっている社員も納得できるような内容の研修を実施することで、誰もが働きやすい職場づくりにつながり、結果としてパタハラやケアハラの防止にもつながっていきます。

    NGワード集で終わらない社内教育実施にご興味のあるかたは、ぜひこちらの資料もご確認ください。

    マタハラ防止研修の詳細はこちらからご覧下さい

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